2007年の著書『庭で楽しむ野鳥の本』は、発売後1ヶ月も経たないうちに重版となり、以後、版を重ねながら10年以上売れ続けるベストセラーになりました。11刷という重版回数は私の著書としては今でも最高記録です。また、一時は楽天ブックスの動物部門で何週かに渡って売上ランクの第1位にも輝き、お陰様で野鳥写真家としての大橋弘一の名を少しは高めてくれたと感じる本になりました。この本がよく売れたことで、同じシリーズで水鳥を主とした内容の『散歩で楽しむ野鳥の本』も翌2008年に上梓することができました。
『庭で楽しむ野鳥の本』の成功の理由は、①鳥の写真が原寸大、②読み物として楽しめる文章、③ビジュアル的に美しい作り、の3点にあったと思っています。この本のこうしたコンセプトを立案してくれたのは山と溪谷社の神谷有二さんであり、その企画力には心から感謝しています。神谷さんは、「この本は10年間売れ続ける本にしたい」とも「見て楽しめる美しい本にしたい」ともおっしゃっていました。それを実現できるのが大橋だと、私に声をかけて頂いたことがすべての始まりでした。狙い通り、10年以上売れ続けたのも神谷さんのお力あってのことだと思います。
①の原寸大写真については何人もの知人から賛同の声が寄せられ、また多くの読者の皆様からも鳥を身近に感じるきっかけになったなどといううれしい声をお聞きしました。しかし、この本の肝である写真はすべてポジフィルムでの写真でした。もちろん、当時としては最高の画質になるよう配慮しましたが、じつは原寸大で鳥そのものを見せるということは意外とフィルムからの拡大率が高く、結果、ざらついたりぼやけたりしてしまう写真も掲載せざるを得ない部分がありました。著者としては、それを何とかしたいと思いながら日々を過ごしていたことも事実です。
その『庭で楽しむ野鳥の本』から13年。コロナ禍の真っただ中で、再び神谷さんから連絡がありました。気安く外へ出ることもはばかられる時代、庭先で自然と触れ合える内容の本が求められている、とのことで、『庭で楽しむ野鳥の本』と『散歩で楽しむ野鳥の本』の中身を刷新して一冊にまとめられないだろうかという趣旨のお話でした。私がこの話に同意しないわけはなく、2020年の秋に、あれよあれよという間に『庭や街で愛でる野鳥の本』の出版が決まりました。
そこで、この新著では写真を最新のデジタル写真に差し替えることを最優先に考えて準備を進めることにしました。デジタル写真は、今では解像感はフィルム写真と比べ物にならないほど優れており、その結果、写真の全てをデジタルに差し替えたこの新著はビジュアル的にも充分満足できる仕上がりになりました。原寸大の鳥の写真を見て頂くための十分な画質の本となり、著者としては、『庭で楽しむ野鳥の本』の初版から14年をかけて、その意味でようやく完成したと感じています。なお、解説文は、私の得意とする野鳥雑学を始めた頃の文章であり、元々好評をいただいていたので、できる限りそのテイストを残しました。時代に少しそぐわなくなってきた点だけ書き直しましたが、ともあれ、写真も文章もこれでどなたにもお勧めできる本がここに完成したのです。
2021年3月1日、『庭や街で愛でる野鳥の本』が発行されました。
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